Louis Vuitton
3年前、langkawiで、1500円で買ったバチ物である。その財布の底が剥がれてきた。縫い目もほころびている。両替しようとしたときに気がついた。
どうしたものか、考えながら歩いていると、路上で営業している靴修理のオヤジと目があった。
「おっちゃん、この財布やけど、ここに接着剤入れて、このあたりを縫うてくれる」
財布を見せて指差し確認。オヤジは財布の中味を取り出させたあと縫い始めた。5分ほどで仕上がったが手縫いである。美しいとは形容しがたい。
オヤジは靴を磨くようにさっさっさと財布にブラシをかけた。原稿のピリオドを打つように、さっさっさをしないと修理が終わった気がしないのだろう。
料金は3リンギット(100円弱)である。
オヤジはわがバレンチノを差し出し、南雲にどこから来た?と聞いた。ジャパン。そう応えると、オヤジは財布とわが顔を交互に見つめた。
「日本人は金持ちやろ。こんなバチ物の財布を持たずに、新しい財布を買えばええんやないの」
オヤジの目は南雲の原稿以上に語るのである。
スコールがやってきた。アーケードのある中華街に入り財布をチェック。バチもん(偽物)ばかりである。
Louis Vuittonの財布の匂いを嗅いでみた。偽物の臭いがした。店のオヤジはすかさず、Louis Vuittonの箱入り財布を取り出した。こちらのほうは本物に見えるし臭いもしない。値段は倍の120リンギット(3500円ほど)である。
南雲にLouis Vuitton。猫に小判。犬にキャットフード。店には帽子も売られている。ストーンズキャップはすでに持っている。メッシュのハンチングが目に付いた。10リンギットだろう。
「オヤジ、この帽子をつけて、これでどない」
電卓に100と打った。不好、不好。オヤジはアカンを連発。南雲はLouis Vuittonが欲しい訳ではない。すぐに諦めた。
「旦那、今日は天気が悪くて客が来ない。あんたは最初の客だ。ここは100でいいです。あんたもハッピー、おいらもハッピー。みんなでハッピーカムカム」
そんな程度の会話をしたあと支払った。白のハンチングを被りとっても得した気分になった。ハッピーカムカムである。

飯屋に入りビールを飲みながらバチ物のバレンチノからLouis Vuittonの財布に引っ越しをした。テーブルに置かれた中味のないバレンチノは一気にくたびれ老け込んだ。
中味を元に戻してみた。すると財布は生気を取り戻すのである。バレンチノは前よりもふっくらと輝いた。靴底のように縫われた傷跡も男の履歴書、スカーフェイスに見える。
バチ物のLouis Vuittonは精巧に作られた本物に見える箱に収まってもらった。
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